空を映す鏡

空を映す鏡があった。

T字路に立つカーブミラーのことだが、そのミラーには、いつも空が映っているらしい。

それを見たことがある人の話は不思議と聞かなかった。

だが、その噂はじわじわと日常を侵食するかのように、ひっそりと、私達の間で広まっていったのだ。

空を映す鏡のことを思い出したのは、なんてことない。

運転の練習のために車に乗ったのだが、その車のサイドミラーに映った空が、ゾッとするほど美しい青をしていたからだ。

今から書く空は、五年ほど前、私が高校二年生の夏に見た空なので、正確な青さを伝えられないかもしれない。

でも、あの日は、今日と同じくらい、空が青い日だった。

空を映す鏡の噂は、ずっと昔から囁かれていたもので、夏になると、誰かがなんとなしに呟く。

「T字路に立つカーブミラーには、いつも空が映っているらしい」

感覚的には、小学生の話す七不思議や、大人が好きなゴシップネタのようなものだった。

別に、このカーブミラーが曰く付きだったわけじゃあない。縁起が良かったわけでもない。

ただ、見通しの悪い場所にあるカーブミラーが、空しか映さないという話が、無性にツボに入っただけだ。

私は、そのカーブミラーを見たことがある。

あの日、空が青かったあの日のことだ。

学校に行く途中の道に、カーブミラーを見つけた。

それが、空を映す鏡と呼ばれているものだということは、カーブミラーに青い空が映っているのを見てすぐに理解した。

別にそれを見たからといって、何かが変わったわけではない。

ただ、そこに映る空が、青かっただけだ。